経営管理部門のリーダーは大きな転換期を迎えています。変革が日常化する中で、CFOには不確実性の高い環境を乗り越えながら、迅速かつ的確な意思決定を行い、企業価値向上に向けたパフォーマンス変革を牽引する役割が求められています。
経営管理変革は、もはや一時的なプロジェクトではありません。多くの企業にとって、それは日々の業務環境そのものとなっています。継続的な市場変動、複雑化する規制環境、そして急速なAIの進化を背景に、CFOに求められる役割は、業績を管理することだけにとどまりません。戦略、リスク、テクノロジー、資本配分、そして事業実行を全社横断で結び付け、企業全体のパフォーマンス向上を牽引する存在としての役割がますます重要になっています。
こうした変化は、「変化への備え」を競う時代から、その先の新たな段階への移行を示しています。もはや成功は、組織がどれだけ変化に備えているかではなく、変化する環境にどれだけ迅速かつ効果的に対応できるかによって決まります。その結果、CFOは企業全体のパフォーマンスを統括する“オーケストレーター”として、不確実性を乗り越えながら、インサイトを具体的なアクションへとつなげる役割を担うようになっています。
ウォルターズ・クルワーとCCH Tagetikが実施した「 2026年版 Future Ready CFO 調査」では、20カ国1,672名のシニア経営管理リーダーを対象に調査を行いました。その結果、デジタルトランスフォーメーションはすでに経営管理部門に深く根付き、統合システム、デジタル化された業務プロセス、AI活用施策の導入が着実に進んでいることが明らかになりました。今、企業の関心は「変革そのもの」から、「その変革をいかに成果につなげるか」へと移りつつあります。
本記事では、ウォルターズ・クルワーとCCH Tagetikによる「 2026年版 Future Ready CFO 調査」の結果に加え、ウォルターズ・クルワー、CCH Tagetik、デロイトの経営管理変革リーダーが登壇した「Future Ready CFOウェビナーシリーズ」第1回セッションで共有された知見も交えながら、これからのCFOに求められる役割について考察します。
ウォルターズ・クルワー Wolters Kluwer Corporate Performance & ESG CEOのMaria Montenegro氏は、レポートの中で次のように述べています。
「将来への備えは、前提条件が崩れたときに、経営管理部門がパフォーマンス・オーケストレーターとしてどれだけ効果的に機能できるかによって決まります。」
CFOは“備える時代”から“対応し続ける時代”へ
10年以上にわたり、経営管理変革は「変化への備え(Readiness)」によって定義されてきました。企業はERP環境の刷新を進め、決算業務のデジタル化を実現し、計画策定、レポーティング、連結管理を統合してきました。また、経営管理部門のリーダーは、データ品質の向上、可視化の強化、さらには経営管理部門と事業部門との連携強化に取り組んできました。
こうした取り組みの重要性は今も変わりません。しかし、根本的に変化したことがあります。それは、変革がもはや「開始と終了のあるプロジェクト」ではなくなったということです。変革そのものが、企業を取り巻く日常的な業務環境となったのです。
「 2026年版 Future Ready CFO 調査」によると、多くの経営管理リーダーはすでにデジタル成熟度の高い環境で業務を行っています。レガシーシステムを主要な障壁と考えている回答者はわずか14%にとどまり、過半数がデジタル施策、業務プロセスの近代化、そして経営管理変革そのものが日々の業務に組み込まれていると回答しています。
今、焦点は「準備」ではなく「実行責任」に移りつつあります。重要なのは、変化に備える能力ではなく、変化が現実として起きている最中に、それへどれだけ効果的に対応できるかです。
経営管理リーダーは、不確実性への備えの度合いではなく、不確実性が顕在化した際にどれだけ迅速かつ的確に意思決定し、組織を導けるかによって評価される時代を迎えています。
増え続ける期待と責任に向き合うCFO
今回の調査で特に注目すべき結果の一つは、CFOに求められる役割が拡大し続けている一方で、従来の期待や責務は一切軽減されていないという点です。
ガバナンスの維持、コンプライアンス対応、リスクマネジメント、そして財務統制は、依然としてCFOの中核的な責任です。その一方で、CFOの役割はさらに広がりを見せています。経営管理リーダーには、変革の推進役として組織を導くだけでなく、資本配分の最適化を支援し、AI活用をリードし、CEOや経営陣の戦略的パートナーとして企業価値向上に貢献することがより強く求められるようになっています。
しかし重要なのは、こうした新たな役割が加わったからといって、従来の責務がなくなったわけではないということです。
CFOには引き続き、既存の責任を果たしながら、さらに次のような役割を担うことが期待されています。
・経営管理変革を主導する
・業務プロセスの高度化・モダナイゼーションを推進する
・AI活用の方向性を示し、導入を牽引する
・資本配分に関する意思決定へ影響力を発揮する
・全社的な経営戦略の立案・実行を支援する
・CEOおよび経営陣(C-suite)の戦略的パートナーとして機能する
調査では、CFOや経営管理リーダーの役割が大きく広がっていることが明らかになりました。
- 53%がデジタル変革および業務プロセス変革の責任を担う
- 42%が資本配分や投資意思決定を統括
- 40%がリスクマネジメントを担当
Deloitte UK、経営管理戦略・変革担当パートナーの ayal Shah氏は、今日の経営管理リーダーには、財務・会計の専門知識だけでなく、市場や競争環境に対する深い理解がこれまで以上に求められていると指摘しています。製品や顧客、市場動向への理解を深めながら、事業戦略やポートフォリオ戦略の策定にも積極的に関与するケースが増えています。
つまり、現代のCFOは単に業績を報告・管理する存在ではありません。企業のパフォーマンスを形成し、将来の成長を左右する意思決定や投資判断に影響を与える、より戦略的な役割を担うようになっています。
CFOの役割は、「数字の管理者」から「企業価値向上を推進する経営パートナー」へと進化しているのです。
CFOが「エンタープライズ・パフォーマンス・オーケストレーター」へと進化する理由
レポートでは、これからのCFO像として「Performance Orchestrator(パフォーマンス・オーケストレーター)」という考え方が提示されています。
この役割は、以下の領域が交わる中心に位置しています。
・経営戦略(Strategy)
・資本配分(Capital Allocation)
・テクノロジー(Technology)
・リスク管理(Risk)
・コンプライアンス(Compliance)
・データ活用(Data)
・部門横断の連携(Cross-functional Collaboration)
つまり、経営管理部門の枠にとどまるのではなく、CFOにはこれらの領域を横断的につなぎ、組織がより迅速かつ確信を持って意思決定できる環境を実現する役割がますます求められています。
この変化は、企業を取り巻く競争環境そのものが変わってきていることを反映しています。もはや企業が競争優位を築く要因は、情報へのアクセスそのものではありません。競争力を左右するのは、得られた情報をいかに素早く具体的なアクションへと変換できるかです。
その中で経営管理部門は、データ、インサイト、そして意思決定を全社的につなぐ「接着剤」あるいは「ハブ」としての役割を担うようになっています。