ヘルス01 1月, 2025

テクノロジーの活用で 信頼性の高い医療機関を 目指す

医療は進化を遂げています。大きな影響を与える 意思決定を行うために、医療従事者がエビデンスに 基づいた最新の研究を入手・把握する責任は これまで以上に増しています。そして、医療業界の リーダーは、遠隔医療などのテクノロジーを 駆使して情報アクセスやガイダンスの進化を 実現しています。

この動向を促す暗示的な要因

  • 政府の法規制
  • 新世代のデジタルネイティブな医療従事者
  • 消費者向けテクノロジーにより患者が多くの情報を 入手
  • 医療コミュニケーションや医療環境に対する患者の 新たな期待
  • 最適化や標準化、さらにはいつでも医療を受けられる ようにしてほしいという要望に関して医療機関が直面 する財政難

この実現のために、リーダーはさまざまなテクノロジーを 導入して医療の提供方法を改善しています。

重要な3つの基本原則:

  • 適切なデータや 情報へのアクセスを 提供する
  • 最良の エビデンスを 実践に活かす
  • 医療従事者の エンパワーメントを 推進する

1. 適切なデータや情報への アクセスを提供する

医療の変革活動の多くは、20年前に始まった医療データの 最適化と連携に端を発します。それでも、現在に至るまで 多くの重要なデータは縦割り管理のままで体系化されて おらず、統一性もなく、共有されていません。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まった 年に、世界各国の官民関係者が集まり、データを 分離する壁を取り壊しました。ジョン・ベル卿は、 2021年11月のポッドキャストでこのように語ってい ます。「新型コロナウイルスは、規制機関と医薬品 業界の関係を永遠に変えました。その主な原因は スピードです。」

意思決定では、医療データが脳と中枢神経系の 役割を果たします。残念なことに、パンミック以降も、 医療研究データの国境を超えた共有は極めて難しい ままです。欧州の科学協会は、2021年の報告書で、 データの流れの停滞が研究の受益者である患者に 影響していると説明し、責任ある解決策を求めてい ます 1

医療の連携を改善し、真の意味での患者中心の医療 モデルに近づくためには、正確で実践的なデータの 入手を阻む壁を取り除かねばなりません。

データを処理すれば臨床に応用できる情報になるのか?

今日の医療従事者は、めまいを覚えるほど大量の研究、続々と発信される情報、政府や医療機関の指針、 迅速な対応への要求に直面しています。しかし、爆発的に発生する新たな情報を医療従事者だけで処理 できるのでしょうか?さらに重要な点として、医療従事者は患者を診察する際に、正しい情報を応用 できるのでしょうか?

学術論文、データベース、灰色文献(クリアリング ハウス、学会議事録など)のオンラインリソースは、 医療従事者の主な参考文献です。国際科学技術 医学出版社協会 (International Association of Scientific, Technical, and Medical Publishers) によると、2020年の全世界の学術 出版市場で、デジタルは科学技術分野の89%を 占めています (STM Global Brief 2021) 2

医療従事者には、信頼できる推奨治療法を必要と する場合が多々ありますが、そのようなものは 存在しないか、査読付き文献にも明確に記載され ていません。治療、検査、スクリーニング検査の ベネフィットや害に対する医療従事者の期待に関 する48件の研究のシステマティックレビューでは、 大部分の研究でほとんどの医師は不正確な期待を 抱いていると示されています。

医療従事者と患者は、次々と発せられる大量の誤情報 にも直面しています。誤情報があまりにも蔓延して いるため、世界保健機関は「インフォデミック」と 名付けました。

(医療従事者が治療に関する意思決定に使用する) ほとんどのガイドラインは、元となっているデータの 質の低さをきちんと認識しているとはいえません 3

2017年の『European Journal of Clinical Investigation』4 に掲載された 「How to survive the medical misinformation mess」(医学誤情報の 混乱をどう乗り切るか)で指摘されている 4つの主な問題

  1. 学術誌に掲載されている 医学研究の多くは信頼で きない、あるいは信頼性が 不明であり、患者の ベネフィットにならない、 または意思決定者の役に 立たない。
  2. ほとんどの医療従事 者は、この問題に 気づいていない。
  3. 問題に気づいていると しても、ほとんどの 医療従事者には医学 エビデンスの信頼性と 実用性を評価する スキルがない。
  4. 患者やその家族には、 医療に関する意思決定の 際に、重要で正確な医学 エビデンスや優れた ガイダンスが往々にして 欠如している。

医療誤情報は、 患者と医療従事者の 関係を弱体化させ、 健康アウトカムに 悪影響を与える 可能性もあります

例えば、薬に関する誤情報はアドヒアランスの 低下につながると示されています。患者は多くの 薬を飲みすぎていると心配しているかもしれません。 そして、治療に関する誤情報を信じていたり、治療に 対する誤解があるかもしれません(例えば、「検査 結果が正常だったら、治療を中止してよい」など)。 薬に「依存してしまう」と思いこんでいたり、生活 習慣を変えたい、別の治療法に変えてほしいという 希望も服薬アドヒアランスに影響します。

医療従事者と患者は、常に慎重であるべきです。 自分が見聞きしたエビデンスや情報のソースを 確認するなど、その質や実用性を確認・評価できる ようにしなければなりません。

2. 透明性と信頼性で最良の エビデンスを実践に活かす

「現時点で最良のエビデンス」というアプローチの 活用は、新たなエビデンスや大量の灰色文献を評価・ 精選してエビデンスを確実に役立て、医療をベスト プラクティスに統一します。さらに、公衆衛生の 脅威を早期に警告するシステムとしても役立ちます。

医療従事者は、診療や管理に関する意思決定を 毎日行っています。このため、最良のエビデンスを 盛り込んだガイダンスを適宜確認できること、 そしてそのエビデンスが臨床専門家の知恵や臨床上の 意思決定に影響を与える重要な情報源によって 補われていることが重要です。

現時点で最良のエビデンスというアプローチは、 新たな研究や臨床から急速に発生する大量の データを確実に精選し、信頼性が高く実践的な 推奨治療法にまとめることを可能にします。 これまでは、医学が変化するペースは遅く、 医療チームが連携していなくても大きな問題は 起こりませんでした。しかし、現在は異なる 情報に基づいて行動していたら、医療が非効率に なるだけでなく、深刻な害をもたらしかねません。

これに対して、スピーディに検討された共通の 確実な情報源を使用すれば、状況をまたいで 医療を連携する機会が生まれるだけでなく、 大局的には安全性、質、患者アウトカムに劇的な 効果がもたらされます。リソースに制約があり、 患者エンゲージメントが高まっている時代には、 これが特に重要です。それは、臨床的に有効な 医療を実践するためには、一連の医療プロセス 全体での連携が欠かせないからです。

「患者に関する難しい意思決定を行う際に、エビデンスが 不十分で推奨にまとめられていないガイダンスを読んだり、関連する可能性がある研究の概要を見るように示されても、忙しい医療従事者の役には立ちません。」
ピーター・ボニス医師 Wolters Kluwer, Health 最高医療責任者

最良のエビデンスを前線で 働く医療従事者が使える形に まとめられれば、パンデミック 後の医療を改善し、生命を 救える大きな可能性があります。 ただし、それはやり方が正しけ ればの話です。

例えば、治療法がすぐに変更されたり確立されてい ない感染症やがんなど、未知の複雑な症状に対処で きます。

ワークフローでの 臨床意思決定支援が 極めて重要な理由

  • 専門領域や状況の枠を 越えた医療チームの連携で、 ベストプラクティスの 標準化に役立つ。
  • 最良のエビデンスと臨床経験に 基づいた最善の選択を患者に 提供できる。

最良の科学を実践に 活かすために重要な 要素

  • エビデンスの反映 : 関連するエビデンスのソースを系統的に検討 するには、厳格なプロセスが求められます。 エビデンスを慎重に検討した上で内容に反映し、 医療従事者がすぐに正しく理解できる形で 提供しなければなりません。
  • ピアレビュー : 明確で実用的、最新の考え方を反映している 診療推奨を作成するには、チーム全員の努力が 必要です。これには規則に従ったピアレビュー プロセスが欠かせません。編集プロセスには、 エンドユーザー、すなわち医療従事者の意見も 取り入れるべきです。
  • 厳格性とスピード : プロセスは効率性を重視する一方で、質に妥協 してはなりません。すなわち、内容は最良の エビデンスに基づき、明確に定められた厳格な 編集プロセスの後に、専門家によるピアレビューを 実施するべきです。
  • 関連性の高い専門知識 : 発表されたエビデンス(不完全であったり、確定 していない場合も多い)を診療推奨にまとめるには、 臨床専門家の協力が必要不可欠です。専門家は エビデンスを理解し、自身が担当するガイダンスの 専門領域で患者の診療経験を有することが必須条件 です。
  • 透明性 : 大量の新しいデータから必要なデータを定期的に 精選できる医療従事者はいません。そのため、 専門家がどのようにデータを評価し、どのように して推奨にまとめたかをわかりやすく示すべきです。 エビデンスの質に基づいた臨床推奨の格付けは 信頼度を表し、意思決定を導きます。
  • 探しやすい情報 : 臨床意思決定支援は、ワークフローや臨床現場で 簡単に利用できるような形式でなければなりません。 医療機関のトップがこのようなアプローチを施設の ワークフローに導入することにより、診療方法の 適切な変更が促され、臨床的改善が信頼構築を 強化します。

3. 医療従事者のエンパワーメントを 推進する

深刻な人材不足と予算縮小も、医療のデジタル化・標準化の きっかけです。

数十年前に始まった人員の再配置や役割の拡大は、 新型コロナウイルスの世界的大流行の危機的な 段階で悪化しました。医療の管理やチームごとの 責任制度、データに基づいた役割などは、今や 当たり前です。

このようなやり方で人材不足は一時的には解消で きますが、多くの医療従事者が現在経験している 燃え尽き症候群には対処できません。医師や 看護師など、前線で働く医療従事者の離職が 激増しています。


現在、イギリスでは94,000人近くの正職員が 不足しているとNHS病院、メンタルヘルス サービス、コミュニティプロバイダーが 報告しており、看護職のポストは10人に 1人の割合で空席になっています5


将来の変化に対応 した人員計画を 取る

その課題は、定着率、キャリア開発、健康を回復 するセルフケアを推進する新たなモデルの構築です。 もちろん、新たな医療の提供方法と診療モデルの 登場で重要性を増すソフトスキルを教えるなど、 これまでにない分野への対応は言うまでもありません。

とはいえ、テクノロジーへの予算割当は院内や IT内の他の予算要求と競合するので、それによって 患者に提供する医療の質がどれだけ上がるか、 どれだけの利益が生じるかに基づいて優先度を 適切に評価し、順位を付ける必要があります。

クリティカルケア臨床薬学顧問のNada AlQadheeb氏(PharmD、BCCCP、FCCP、FCCM)は、 22施設の病院などを経営するEastern Health Cluster (EHC) のファーマシューティカルケア・ フォーミュラリー管理業務主任を務めています。 同社は、サウジアラビア王国のVison 2030計画の 一環として創設された最初の組織です。

テクノロジーに関して質問すると、ほとんどの 医療リーダーの経験に同調してこう答えました。 「テクノロジーエコシステムを総合的に捉えて連携 させるために、組織全体を管理するITリーダーを 採用したばかりです。私たちはテクノロジーを 信じていますが、非常に高価であり、他にも優先 事項があります。そしてテクノロジーに対する ニーズは、組織内でも異なります。」

また、大型の病院は、情報システムやバーコード システムに接続されているPyxis™自動調剤 システムなど、多くのテクノロジーを利用できる とも付け加えています。小さな医療機関は大きく 遅れを取っています。

医療の提供の 変化に必要な 4つの労働関連 事項

新たな提供モデルに研修を 取り入れる

研修には、テクノロジーを利用した チームごとの医療の変化を反映した 内容を取り入れます。

メンタルヘルスとウエルビー イングに対処する

回復力を養い、仕事に対する充実感を 得られるようにする取り組みは極めて 重要です。医療機関のリーダーは、 適切なメンタルヘルス支援と診療環境・ 文化の改善を計画する連携的取り組みに、 リーダーや医療従事者を積極的に関与 させてください。

新たな学習スタイルを 予測する

短時間・短期間のセッションを実施し、 動画、バーチャルシミュレーション、 3Dモデル、デジタルツールなど、 既存・最新のテクノロジーツールを 活用します。

質を重視した学術提携・ 研究提携を推進する

医療組織や学術機関との提携は、 卒業生の実践力を養う一方で、 研究は医療の実践に生かされます。

医療の実践において、医療従事者は遠隔医療や オンライン診療、電子カルテなど数多くのデータ ソースから収集したデータの入手・分析・利用方法 など、新たなツールやテクノロジーを使いこなす 能力を強化せねばなりません。 また、医療従事者が自身や患者のニーズを満たすた めの効果的なコミュニケーション方法を将来にわた って把握するために、ソフトスキルやテクノロジーの 操作能力を磨けるように支援せねばなりません。

適切に使用すれば、テクノロジーは 医療の実践と人材研修の効率化をさらに 促進できます。

実地研修では、人工知能が高度化して利用が拡大 する中、アルゴリズムはちょっとした教訓や臨床の 最新情報、改善、リマインダーなどを既存のワーク フローで生成する知見を予想よりも早く生み出せる ようになるかもしれません。

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UpToDate Lexidrug
  1. Bentzen, H.B., Castro, R., Fears, R. et al. Remove obstacles to sharing health data with researchers outside of the European Union. Nat Med 27, 1329–1333 (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-021-01460-0. Accessed 6/17/22
  2. STM Global Brief 2021, Economics & Market Size - An STM Report Supplement. https://www.stm-assoc.org/2021_10_19_STM_Global_Brief_2021_Economics_and_Market_Size.pdf Accessed 6/9/2022
  3. Lenzer, J., Hoffman, J. R., Furberg, C. D., Ioannidis, J. P., & Guideline Panel Review Working Group (2013). Ensuring the integrity of clinical practice guidelines: a tool for protecting patients. BMJ (Clinical research ed.), 347, f5535. https://doi.org/10.1136/bmj.f5535 Accessed 6/21/2022
  4. Ioannidis, J.P.A., Stuart, M.E., Brownlee, S. and Strite, S.A. (2017), How to survive the medical misinformation mess. Eur J Clin Invest, 47: 795-802. https://doi.org/10.1111/eci.12834
  5. The NHS workforce in England is in crisis: urgent action is required to tackle a vicious cycle of shortages and increased pressures on staff, which has been exacerbated by the Covid-19 pandemic. The King’s Fund. 23 February 2022. https://www.kingsfund.org.uk/projects/positions/nhs-workforce Accessed 6/22/2022
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