法務財務税務と会計31 8月, 2021

内部監査部門の変革 - 監査部門の成果目標の設定

内部監査部門の変革に関する記事のパート1と2では、継続的かつ戦略的に整合性の取れた変革を実現している内部監査部門の戦略の4つの特徴を特定し、特徴1と2について検証しました。

  1. Whatから始める-– シンプルでありながらモチベーションにつながる目的主導型の戦略を策定している。
  2. 明確な成果目標を設定し、それを達成するための作業計画を策定する – いつ、何を変更すべきかについて意思決定する際の指針となるフレームワークを策定している。
  3. すべての活動の照準を戦略的成果の達成に合わせる - 全員がこの戦略に向かって足並みをそろえ、確実に同じ方向に進んでいる。
  4. 継続的な内部監査改善の文化を育むことで、組織として結果を出す- 一歩先へと変革を進める継続的なプロセスを追求し、失敗から学びながら、成果を上げている。

パート3では、内部監査部門の成果目標を設定し、すべての変革活動の照準をこの成果目標の達成に合わせる、という特徴3を検証します。

3. すべての活動の照準を戦略的成果の達成に合わせる

内部監査部門の目的と戦略的成果目標の決定後、効果的かつ持続可能な内部監査の変革を実現する次の段階では、限られた変革時間、人材、予算を投入すべき具体的な取り組みを定義します。そのためには3つの手順があり、この手順に注意深く従うことによって、迅速かつ持続的に効果をもたらす結果を得るために、部門に適した変革管理の優先順位を容易に決定できます。

手順1 - 考えられる変革のメニューを作成する

部門の成果目標(詳細は特徴2の記事を参照)ごとに、望ましい成果のそれぞれに向かって前進するために何ができるかを特定します。これに役立てるため、独自のアイデアの開発に加えて、データ分析、予測分析の利用(AIの使用を含む)、監査プロセスの自動化、よりアジャイルな作業方法の採用など、他の内部監査部門が検討しているソリューションを参考にする必要があります。内部監査が大きく変化している6つの領域を特定するTeamMate監査ベンチマークレポートなど、専門職の新たなトレンドに関するコンサルティング会社の洞察が役立ちます。

変革の可能性

戦略的成果目標の例: 考え得る変革「メニュー」の例:

最先端の内部監査手法の導入
データ分析(DA)- 対象の拡大と
リスクの早期警告

  • DAスーパーユーザー
  • ユーティリティのDAスイート
  • DA内部監査人研修プログラム
  • DA内部監査人採用評価ツールキット
  • 仮説に基づく内部監査手法
  • 自然言語処理能力

注:この段階では、こうした取り組みを評価したい誘惑と戦ってください(もっと後の段階で評価します)。変革戦略の策定プロセスでは思考が拡張モードになっているのに、評価することによってアイデアが生まれにくくなる可能性があるからです。この作業は、部門横断型のワークショップを重ねることで、できる限り多くの監査チームメンバーに関わってもらい、さまざまなアイデアを引き出しながら、最終的に選択した変革活動への協力も得られる、という点で有益です。

ウォルターズ・クルワー社のTeamMateエキスパート・ソリューションは、内部監査の現在および将来の状況を調査する包括的なグローバル分析を開始しました。この広範な調査には、世界120カ国であらゆる規模の内部監査チーム、主要産業から1,000人以上の内部監査専門家が参加しました。この包括的な調査により、グローバルな内部監査専門職の発展について、さまざまな独自の見解が得られました。

  • 内部監査データ分析 - 監査の対象範囲を拡大し、スピードを加速
  • アジャイルな内部監査手法 - アジャイルプロジェクト管理手法を採用して、監査作業のインパクトとスピードを向上
  • ロボティクスやAIなどの革新的技術による内部監査の自動化
  • 継続的なリスク評価 - 単発の監査から継続的なリスク評価手法への移行
  • ファーストラインとセカンドラインのメンバーとの統合監査。コントロール評価作業の効率性を向上し、対象範囲を拡大
  • 内部監査チーム全体のデジタルスキルの開発

手順2 - 優先度の高い分野をメニューから選択する

この段階で、多くの監査部門が、手順1で出されたすべてのアイデアに対して大規模な変革活動を開始してしまう、という失敗に陥ります。これでは、変革の負荷が大き過ぎ、取り組みへの賛同の度合いが低いという問題に直面し、目指す変革が果たせないという結果に終わるのが目に見えています。優先順位を決定することが重要です。すべての作業を網羅したリストから、最初に実行すべきターゲットを絞って、限られたリソースをどこに集中させるかを慎重に選択することで、できる限りアジャイルな方法でリソースを結集させ、迅速に価値を提供することができます。また、変革活動の順序は、変革を実現するために必要な労力と、変革がもたらすと想定される影響を考慮して決定する必要があります。これを実施するための1つのツールとして、インパクトエフォートマトリクスがあります。

Impact Effort Grid 

 このマトリクスでは労力と効果のバランスに基づいて、変革したい分野の優先順位を決め、以下の何に当てはまるかを検討します。

  • クイックウィン - 労力小・効果大。最小限の労力で、迅速に価値をもたらす簡単な方法です。待つ必要はありません。すぐに行動を開始しましょう。
  • 潜在的なモメンタムビルダー- 労力小・効果小。ここに入る項目は、すぐには魅力的ではないかもしれませんが、変革プログラムに勢いをつけるのに役立つ可能性があるため、検討する価値はあります。しかし、これが多すぎると、より高い効果を得られる可能性から目をそらしてしまうことにつながるため注意してください。
  • Transformational change items - トランスフォーメーショナルな変革項目 - 労力大・効果大。これに該当する項目は慎重に検討する必要があります。監査部門にとってゲームチェンジャーとなる可能性がありますが、実行には多大な時間と労力が必要となります。より管理しやすい作業に分割し、期待する価値を実現する方法についてより詳細な管理計画を構築することを検討してください。
  • ディレイラー - 効果小・労力大。これに当てはまる項目は、すぐに破棄する必要があります。このタイプの活動は、効果の高い活動を頓挫させるだけです。ディレイラーだと判明した行動には関わってはなりません。

手順3 - 1年目の優先事項を決める

5項目ルールを考慮する – 可能性のある項目を絞った後は、クイックウィン(労力小・効果大の項目)の必要性とよりトランスフォーメーショナルな変革の要件とのバランスを取りながら、最初に優先する項目を選択する必要があります。この段階では、ステークホルダーにできる限り迅速に価値を提供する対処可能な変革の取り組みのリストを作成するために、管理の規律が必要となります。例えば、ある組織では、70を超える変革プロジェクトの優先順位付けができずに同時に実行したことで、変革は混乱に陥りました。負荷がかかった担当者たちによる生産性の低下、すでに野心的な監査計画を進めていたところに多くのアイデアを実現することを期待された監査人たちの疲弊につながりました。それは、目指していたアジャイルな変革のアプローチとはかけ離れたものでした。私の経験では、リーダーチームが同時に注力できるのは、最大5~7の重要なタスクに限られています。集中して取り組む変革活動を5~7に絞ることで、リーダーシップチームの戦略的意図と、短期的なうわべだけの変革ではなく、持続可能な本物の変革を実現したいという意思が、内部監査部門に強力なメッセージとして伝わります。また、各タスクにおいて真の意味での部門横断型の協力体制を構築し、成果物の品質を向上させ、すべての監査人により導入に成功する可能性が高まるというメリットもあります。

優先事項の決定には最適ではないものの、内部監査の変革において重視すべき点についての議論を進めるうえで、3ステップのアプローチが有効です。これは通常、プロセスの中で最も難しい部分であり、とりわけ、特定された作業がもたらす価値について、議論が白熱することでしょう。ここでの議論が、明確な優先事項に対してリーダーチームの足並みをそろえるうえで重要であり、その後ではじめて優先事項を監査チームの他メンバーに共有することができます。
つまりこの時点で、内部監査部門の戦略の策定において、説得力のある目的、部門の合意が得られる将来を見据えた意欲的な成果目標、その成果をより確実に実現するために実施すべき変革活動の優先順のリストができていることになります。しかし、これらの成果目標とそれに伴う合意済みの変革活動をどのように組織として実行すべきでしょうか。意図する価値を提供するとき、それが長期にわたって提供され持続することを保証するためには、何をすべきでしょうか。この連載の次の記事では、内部監査部門の戦略の最後の特徴4「継続的な内部監査改善の文化を育むことで、組織として結果を出す」について検証します。

Jonathan Chapman
リスクと内部監査の変革を専門とするコンサルタント
ジョナサン・チャプマンは、内部監査の機能戦略とチェンジマネジメントの専門家です。
Back To Top