手順2 - 優先度の高い分野をメニューから選択する
この段階で、多くの監査部門が、手順1で出されたすべてのアイデアに対して大規模な変革活動を開始してしまう、という失敗に陥ります。これでは、変革の負荷が大き過ぎ、取り組みへの賛同の度合いが低いという問題に直面し、目指す変革が果たせないという結果に終わるのが目に見えています。優先順位を決定することが重要です。すべての作業を網羅したリストから、最初に実行すべきターゲットを絞って、限られたリソースをどこに集中させるかを慎重に選択することで、できる限りアジャイルな方法でリソースを結集させ、迅速に価値を提供することができます。また、変革活動の順序は、変革を実現するために必要な労力と、変革がもたらすと想定される影響を考慮して決定する必要があります。これを実施するための1つのツールとして、インパクトエフォートマトリクスがあります。
このマトリクスでは労力と効果のバランスに基づいて、変革したい分野の優先順位を決め、以下の何に当てはまるかを検討します。
- クイックウィン - 労力小・効果大。最小限の労力で、迅速に価値をもたらす簡単な方法です。待つ必要はありません。すぐに行動を開始しましょう。
- 潜在的なモメンタムビルダー- 労力小・効果小。ここに入る項目は、すぐには魅力的ではないかもしれませんが、変革プログラムに勢いをつけるのに役立つ可能性があるため、検討する価値はあります。しかし、これが多すぎると、より高い効果を得られる可能性から目をそらしてしまうことにつながるため注意してください。
- Transformational change items - トランスフォーメーショナルな変革項目 - 労力大・効果大。これに該当する項目は慎重に検討する必要があります。監査部門にとってゲームチェンジャーとなる可能性がありますが、実行には多大な時間と労力が必要となります。より管理しやすい作業に分割し、期待する価値を実現する方法についてより詳細な管理計画を構築することを検討してください。
- ディレイラー - 効果小・労力大。これに当てはまる項目は、すぐに破棄する必要があります。このタイプの活動は、効果の高い活動を頓挫させるだけです。ディレイラーだと判明した行動には関わってはなりません。
手順3 - 1年目の優先事項を決める
5項目ルールを考慮する – 可能性のある項目を絞った後は、クイックウィン(労力小・効果大の項目)の必要性とよりトランスフォーメーショナルな変革の要件とのバランスを取りながら、最初に優先する項目を選択する必要があります。この段階では、ステークホルダーにできる限り迅速に価値を提供する対処可能な変革の取り組みのリストを作成するために、管理の規律が必要となります。例えば、ある組織では、70を超える変革プロジェクトの優先順位付けができずに同時に実行したことで、変革は混乱に陥りました。負荷がかかった担当者たちによる生産性の低下、すでに野心的な監査計画を進めていたところに多くのアイデアを実現することを期待された監査人たちの疲弊につながりました。それは、目指していたアジャイルな変革のアプローチとはかけ離れたものでした。私の経験では、リーダーチームが同時に注力できるのは、最大5~7の重要なタスクに限られています。集中して取り組む変革活動を5~7に絞ることで、リーダーシップチームの戦略的意図と、短期的なうわべだけの変革ではなく、持続可能な本物の変革を実現したいという意思が、内部監査部門に強力なメッセージとして伝わります。また、各タスクにおいて真の意味での部門横断型の協力体制を構築し、成果物の品質を向上させ、すべての監査人により導入に成功する可能性が高まるというメリットもあります。
優先事項の決定には最適ではないものの、内部監査の変革において重視すべき点についての議論を進めるうえで、3ステップのアプローチが有効です。これは通常、プロセスの中で最も難しい部分であり、とりわけ、特定された作業がもたらす価値について、議論が白熱することでしょう。ここでの議論が、明確な優先事項に対してリーダーチームの足並みをそろえるうえで重要であり、その後ではじめて優先事項を監査チームの他メンバーに共有することができます。
つまりこの時点で、内部監査部門の戦略の策定において、説得力のある目的、部門の合意が得られる将来を見据えた意欲的な成果目標、その成果をより確実に実現するために実施すべき変革活動の優先順のリストができていることになります。しかし、これらの成果目標とそれに伴う合意済みの変革活動をどのように組織として実行すべきでしょうか。意図する価値を提供するとき、それが長期にわたって提供され持続することを保証するためには、何をすべきでしょうか。この連載の次の記事では、内部監査部門の戦略の最後の特徴4「継続的な内部監査改善の文化を育むことで、組織として結果を出す」について検証します。