ヘルス15 6月, 2022

飯塚病院、エビデンスを活用して適切な医療を患者や家族に提供

福岡県の飯塚病院は、地方にありながら研修医の教育機関としても有名な大病院であり、また、感染症科を新設するなど、地域医療の中心として成長を続けています。飯塚病院では臨床意思決定支援リソースUpToDate®が病院全体で導入され、全国でも屈指の利用率の高さを誇っています。UpToDateが同病院の成功に不可欠な要素である理由と今後の計画について、感染症科の長谷川雄一先生にお話をうかがいました。

学習の手段にエビデンスを活用

先生がUpToDateを利用されるようになったきっかけを教えてください

長谷川先生:私は医師3年目から6年目までの4年間、当院の総合診療科に在籍していました。当地域は高齢患者さんも多く、患者さん本人、ご家族、多職種や地域のかかりつけの先生方とも協力してさまざまな観点で、ベストな医療を提供する必要があります。当時、私の指導医だった先生からUpToDateのことを教えていただいたことで、実際の診療で利用する機会を得ました。

UpToDateを利用されるようになってから変わったことはありますか?

長谷川先生:当院では2017年からUpToDate Anywhereの利用が始まり、院内院外問わず、個人のスマートフォンやタブレット端末からでも容易にアクセスできるようになりました。しかし、当時はまだ後期研修医で診療経験が浅く検査や治療の知識が不十分な中、疾患に対する疑問点などを自分でUpToDateや英語の原著論文を調べて診療に活かすことは難しく、忙しさも相まって上級医に言われるがままの診療を行っていました。

医師5年目の時に、1年目の初期研修医への教育指導を行う「教育チーム」に配属されました。教育チームでは、日々の診療の疑問点を初期研修医の先生と一緒にUpToDateで調べて勉強し、新しく得た知見を実際の診療に活かして成功体験を積めるよう工夫しました。その頃から、エビデンスをより意識するようになりました。

しかし、全てエビデンスに則ることが最善な医療とは限りません。たとえば終末期医療の現場では、エビデンスよりも患者さんやご家族の望む最期を優先することを経験します。答えのないようにみえるケースでも、より広い視野でUpToDateなどで調べることによって医学的な情報を提供し、患者さんの尊厳やご家族の希望をよく聞き話し合い、意思を尊重しながら医療を提供する際の意思決定支援に役立てることができました。

若手医師のみなさんは「エビデンス」をどのように捉えていますか?

長谷川先生:私は医師5年目の時にチーフレジデントとなり、院内での勉強会の運営を担当するようになりました。研修医へは、疑問を抱いたらまずは日本語の医学書から自分で疑問を調べる習慣をつけ疑問を風化させないこと、その次のステップとして効率よく信頼性のある二次文献であるUpToDateを利用して調べるよう、指導しています。勉強会では臨床上の疑問に対するエビデンスを調べ、実際の診療に活かしていくことを目的としています。UpToDateを利用することで、研修医は従来疑問解決のため論文検索にかかっていた時間を短縮し、忙しい診療の中で疑問を効率的に解決できるようになりました。

現在私は、全国の初期研修医の先生方と共にUpToDateを使って疑問を解決するオンライン勉強会も開催しています。コロナ禍であっても、院内院外問わず全国の研修医の先生方へ少しでもUpToDateが身近なツールとなり、普段の患者さんへの診療に役立つきっかけになることを願っています。

Yuichi Hasegawa診療上の疑問が生じたとき、目の前の患者さんに今すぐ検査や治療が必要な時はUpToDateを利用し自分が考えていることに間違いや足りないことがないかを確認します。どこからでも検索ができるUpToDateは日々の疑問解決に役立つツールです。
飯塚病院 感染症科医師 長谷川雄一

新規疾患や希少疾患に関する疑問解決を支援

総合診療科から感染症科へ異動された経緯を教えてください

長谷川先生:2019年4月、当院に感染症科が新設されました。感染症科は主に、海外渡航関連の輸入感染症やHIVなどの疾患に出会う可能性が高い大都市に集中しており、地方で感染症科を有する病院は稀です。高齢者が多い当地域では、原因不明の発熱や炎症反応が高い患者さんの紹介も多く、感染症診療に関する知識が必要でした。特別な手技や検査スキルがなくても、丁寧な身体診察や患者さんや家族の話からの病歴から鑑別疾患を挙げ、起因菌や感染臓器を推定した上で適切な抗菌薬を選択し、診断に基づき治療期間を設定する診療にやりがいを感じるようになりました。鑑別疾患や想定する微生物は考え方次第で異なり、選択する抗菌薬も変わるため、科内のカンファレンスで自分だけでは思いつかない治療プランを議論できます。日々診療をしていくうちに感染症を専門として研鑽を重ね、地域医療に貢献したい気持ちが強くなり感染症科への異動を決意しました。

感染症科では、どのようなシーンでUpToDateを利用されますか?

長谷川先生:私が感染症科へと異動した頃はちょうど、COVID-19の世界的パンデミックと重なっていたこともあり、治療方針もエビデンスも確固たるものが無い中での診療を余儀なくされました。UpToDateにはCOVID-19に関する情報も当時から非常に多く公開されており、世界中の有益な最新の情報をほぼリアルタイムに入手できたため、診療経験のない感染症科医になりたての私にとって日々の診療に非常に役立ちました。

また、こうした診療経験のない新興感染症以外でも、UpToDateが役に立つケースがあります。

たとえば、高齢者の発熱の原因でもある腎膿瘍や化膿性滑液包炎等の感染症疾患は、身体診察、CT検査、検体検査で起因菌が同定できれば、抗菌薬選択、治療開始に難渋することは少ないでしょう。しかし実際に診療してみると、外科高診が必要なドレナージ適応の膿瘍のサイズや治療継続の期間に関して、具体的に明記された日本語の文献は限られています。UpToDateに記載されたエキスパートオピニオンによるエビデンスから、このようなケースでも外科に相談するタイミングやおおよその治療期間を把握することができ、患者さんやご家族への説明の際にも役立ちます。

他にも、院内で想定される利用シーンはありますか?

高齢患者さんが多い当地域では様々な疾患を抱えている患者さんも多く、自分の専門外の疾患にも対応しなくてはいけない場面も多々ありますが、専門外のことは国家試験の勉強や初期研修医の時の教えが最後であることもあり、自分の知る知見が最新の医学知見とかけ離れていることもあります。COVID-19のように、今まで勉強も診療もしたことがない疾患にいきなり対応する時もあるでしょう。特に、勤務先や時間帯によっては専門外のことを相談することが困難だったり、最新の診療ガイドラインが手元にない場合もあります。そのような時私はまずUpToDateで調べるように心掛けています。最低限の知識を調べ直し、共通言語を理解した上で相談した方が理解も高まります。患者さんを診療する以上、最新のエビデンスをもとにベストな医療を提供したいと思うのは医師として当然です。UpToDateは医師学年、場所や時間を問わず生涯学習を支えてくれるツールだと信じています。

Yuichi Hasegawa医師は研修医時代に専門外の診療科も経験しているはずですが、当時の知見がそのまま役に立つわけではありません。日々更新されていく診療に関する情報をUpToDateから積極的に収集していくことは、診療スキルの向上だけではなく、医師としての生涯学習にもつながっていくでしょう。
飯塚病院 感染症科医師 長谷川雄一

今後への期待

今後のUpToDateやウォルターズ・クルワーに期待することはありますか?

長谷川先生: 感染症診療に限らず内科診療で大切なことは、患者さんの話しをよく聞き病歴を確認すること、そして丁寧な身体診察だと思っています。たとえば肺炎、蜂窩織炎、カテーテル関連血流感染症や感染性心内膜炎といった感染症疾患は多くの場合、それぞれ特徴的な身体所見がみられますが、座学での勉強だけではその特徴的な身体所見を見逃してしまう可能性があります。コモンディジーズでも、海外の画像だけでなく、日本人症例のクリニカルピクチャーがあると、実臨床と照らし合わせて記憶に残りやすいと思います。また、身体診察や海外における最新の機器を用いた手技などの動画もあると研修医教育から自己研鑽まで幅広く応用できると思います。

UpToDateが非常に優れている点は、掲載されている二次情報には必ず引用元(一次情報である論文)へのリンクがあり、詳細に調べることができることです。一次情報の論文により、患者さんの背景を比較検討したり、研究デザインに欠点がないか等を吟味したりすることで、二次情報をもとに本当に目の前の患者さんに適応できるのかを考え直す機会となります。

UpToDateは自分の感じた疑問を簡単に効率よく調べ解決し実臨床に活かすことから、医師として必要な生涯学習まで幅広く活用できるツールです。医師学年、専門、時間や場所を問わず、教育・実臨床から自己研鑽まで幅広く役立つ身近な教育コンテンツとしてこれからも周知したいと思います。

飯塚病院について

福岡県の飯塚病院は、43の診療科と1048床の病床を有する、筑豊地域の大病院です。一次救急から三次救急まで対応可能な救命救急センターを併設しており、地域医療の中心的存在となっています。2018年に設立から100年を迎えた飯塚病院は、臨床研修病院として30年の歴史があります。

飯塚病院では、2011年 よりUpToDateを導入、日々の診療における臨床意思決定支援ツールとしてだけではなく、研修医への勉強会等にも利用されています。

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