ヘルス10 8月, 2021

UpToDate導入事例: 神戸大学医学部附属病院

神戸大学医学部附属病院は、明治2年に設立。現在は、特定機能病院、がん診療連携拠点病院、そして日本初の災害・救急医学研究の拠点という機能を担う大病院です。高度先進医療を提供する病院でもあり、39の診療科と14のセンター機能が設置されています。関西医療圏の中核的な診療機能を担う病院でもあり、教育機関でもある病院のニーズに応えるべく、2005年にUpToDateが導入されました。

臨床から教育、医薬品情報まで。
医療者としての共通言語となるUpToDate

臨床意思決定支援リソースUpToDate®を病院全体で導入し、全国屈指の利用率の高さを誇る、神戸大学医学部附属病院。実際の診療、教育、薬剤情報の共有など、さまざまな立場の医療従事者が、共通のリファレンスツールとしてUpToDateを利用されています。今回は、それぞれの利用シーンや多職種連携におけるUpToDateの利用法などについて、4名の先生方に対談をしていただきました。

先生方が実際にUpToDateを利用されるのは、どのようなシーンでしょうか?

矢野先生:当院では各病棟に薬剤師が配置されており、配置先の分野に特化した情報を検索することが多いです。実際の利用頻度としては1日に5~6回程度、UpToDateに包含されているLexicomp®の「相互作用チェック」が非常に多いです。日本の添付文書には載っていない相互作用、小児や高齢者の投与量を検討する際などに利用しています。もう一つは、医薬品情報室での利用です。各診療科や外来などから薬剤に関する問い合わせがあった場合、海外の情報がほしい時にも利用します。

副作用と思われる情報を得たとします。すでに医師の方で診断されていますが、副作用が懸念されたときは、UpToDateとLexicompを利用して、別の薬剤を医師へ提案することもあります。疑問が出たら自分で調べて医師に提案するということが、薬剤師自身の勉強にもなっています。
神戸大学医学部附属病院 薬剤部長・教授 矢野 育子

南先生:我々のところは全てのがんをカバーしていますから、自分の経験数が少ない領域のがんを診療する際にUpToDateの情報を参考にすることがあります。あまりに希少ながんは、UpToDateでも情報が少ないこともありますが、情報が確認できれば自分の知識が正しいという確認にもなります。

もう一つは、教育です。例えば、がんにはさまざまな治療法があり、自分が実践している治療法以外でも教育する必要がありますから、知識の整理に利用しています。

私がUpToDateを利用する一番の理由は、根拠論文にたどり着きやすい点です。記載されている内容から根拠論文をたどり、容易に原著までたどり着けますから便利です。情報の源は一つではなく、複数の根拠論文がありますから、教育用スライドを作る際にも参考にできます。

坂口先生:私は総合内科ですから、自分がそれまでにあまり経験したことのない疾患を診察することがあります。疾患の概念や最近のトピックス、最前線の治療について知りたいとき、UpToDateは論文をまとめてくれているようなイメージがあって、役立っています。以前、日本では沖縄県でしか見られない疾患の患者さんが兵庫で見つかった、という話を聞いたことがあります。

それから、長く総合内科医をやっていても、分かりにくいケースに当たることもあります。「これだ」と思っていたことが違っていたときに、患者さんの主訴を検索ワードにしてUpToDateで調べます。例えば主訴が下痢の場合、下痢をする疾患が頭の中に浮かぶと、大体はその中に正解がありますが、UpToDateで検索していくと、感染症もあれば、ホルモンの病気もある。候補疾患のようなものが挙がってきて、自分が考えもしていなかったものが見つかることもあります。

教育者というお立場からはいかがですか?

河野先生:私は、卒前卒後の教育を担当しています。医師の中でも40代、50代ぐらいで専門がはっきりしている方は、その領域の専門誌から情報を得ることが多いかもしれません。しかし、それ以前の後期研修医くらい、いろいろな症例を経験したいという方にとっては、UpToDateは非常にありがたいコンテンツだと思います。また、卒後の研修先の病院でもUpToDateを使った研修を行うところがあります。つまり、現在はUpToDateが多施設での共通言語のようになっている部分があるのでしょう。大学病院でも同じコンテンツを持っていれば、研修の連続性が維持できます。卒業前でも、自ら学ぼうとする学生ならばUpToDateを使いたい、という人もいるでしょう。

南先生:私の指導は、ベッドサイドティーチングに力を入れています。患者に基づいたミニレクチャー的なかたちでの指導に心がけています。でも、座学ならばUpToDateも利用しますし、研修医、学生ともに自ら利用している人はいます。

私は学生や研修医に対し、「聞く前にまず自分で調べろ」といいます。質問するのは簡単ですが、まずは自分で調べるという姿勢が大切なのです。疾患の概要や治療法などは、まずはガイドラインから調べることも多いと思いますが、日本だけではなく海外のガイドラインも参考にしながら、UpToDateでしっかりと確認するとともに最終的には根拠論文まであたらせるようにしています。

医師も、新しい治療法や薬剤のことはエビデンスベースのUpToDateや多くの論文などから情報を得て、科学的な情報から判断していくべきです。薬剤師と医師が同じ情報源から情報を得て、薬剤師にはより詳しく調べいただくという使い方をしています。
神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科 教授 南 博信

医療者間での共通言語としてのUpToDate

医療者同士の情報共有という点では、どのように利用されていますか?

矢野先生:医師と薬剤師との間では、やはり「薬剤の相互作用」という観点での利用が多くなります。たとえば、日本の添付文書だけでは足りない情報、併用禁忌、併用注意などのランク付けなども、Lexicompにはあります。薬剤師としては、入院された患者さんの持参薬に新しい薬剤を追加するとき、その影響を調べるという利用もします。情報の中にはレファレンスもありますし、PubMedのIDもありますから、すぐにリンク先の情報も読み取ることができる点が、網羅的な情報の検索につながるのだと思います。

かつては、医師が処方を出し、それに対して薬剤師がチェックするという形が一般的でしたが、今は病棟に薬剤師が日常的に配置されているので、処方する段階から医師に対して提言するようになりました。薬剤師が、処方を作る段階から関わっていく、違う職種で協力し合うというのが今のスタイルです。薬剤を決めるのは医師ですが、薬剤師はその薬剤の投与量、相互作用や併用禁忌などのチェックをしていくのが役目だと思います。

南先生:たとえばつい先日、既往症がある患者さんへの処方を考えるとき、薬剤師に「処方を提案してほしい」と依頼しました。

薬剤の中には、QT延長という重篤な不整脈を起こすものがあります。その時は、処方しようとした薬剤に「QT延長を引き起こす可能性がある」という記載がありました。違う薬剤を選択しようとしても、外来診療の間に詳しく調べることは難しい。でも薬剤師がいれば、疾患名や患者の既往歴などの情報をお伝えし、適切な薬剤を提案してもらうこともできます。

矢野先生:医師と薬剤師、同じ情報源からの共通言語で話ができることも、メリットではないでしょうか?

南先生:医師には、製薬会社の医療情報担当者が多くの情報を提供してくれますが、どこまで公平性が維持されているかという問題もあります。医師も、新しい治療法や薬剤のことはサイエンスベースのUpToDateや多くの論文などから情報を得て、エビデンスに基づいた情報から判断していくべきです。薬剤師と医師が同じ情報源から情報を得ることは重要と言えます。

今まで知らなかったことを知ることができる、ということもありますか?

坂口先生:UpToDateの情報を読むことで、さらに疑問や興味がわくことはよくあります。なかなか止まらないというか、調べ出すとどんどん深みにはまっていくというか。電子媒体は、その先にどれぐらいの情報があるのかが分かりません。例えば教科書や医学雑誌などの書物を読むと、一冊の本が目の前にあるので、そこに限界があります。しかし、電子媒体になると、いくらでも調べ物が広がっていくような懸念が逆にあります。どこかで止めないと、UpToDateでの検索ばかりに時間を費やしてしまう程です。

矢野先生:薬剤師は、病棟で患者さんを担当し、実際の治療が標準的かどうかということをチェックするために、ガイドラインなどのエビデンスを調べます。医師に対して、「こういう情報もありますよ」とご提示することもあります。

たとえば、薬剤師が患者様と会ってお話しする中で、副作用と思われる情報を得たとします。すでに医師の方で診断されていますが、副作用が懸念されたときは、UpToDateとLexicompを利用して、別の薬剤を医師へ提案することもあります。疑問が出たら自分で調べて医師に提案するということが、薬剤師自身の勉強にもなっています。

最近では、スマートフォンからもUpToDateのコンテンツを利用できるようになりました

南先生:移動中でも時間のある時に、思い立った時にちょっと調べたり、知識の整理には使えると思います。ただやはり字が細かいので、私自身は大きな画面のほうが見やすいです。

私は総合内科ですから、自分がそれまでにあまり経験したことのない疾患を診察することがあります。疾患の概念や最近のトピックス、最前線の治療について知りたいとき、UpToDateは論文をまとめてくれているようなイメージがあって、役立っています。
神戸大学医学部附属病院 総合内科 准教授、診療科長 坂口 一彦

坂口先生:スマートフォンで見ることができるようになって、思いついた時にパッと調べたり、電車の中などでも、ふと気になったときに調べられるようになりました。ためしに総合内科の中でスマホの利用率を調べてみたところ、自室のPCでの使用60%、移動中のスマートフォンやiPadでの使用が30%、病院内でのiPadでの使用が10%、となりました。半数近くが、スマホやiPadなど、持ち運びができる端末で利用していることになります。私は患者様の目の前でUpToDateを使うことはありませんが、外来で患者様がCTなどの検査に行っている間にスマートフォンでちょっと調べるということは時々あります。

今後への期待

今後のUpToDateやウォルターズ・クルワーに期待することはありますか?

坂口先生:今でもときどき、教育という面でもUpToDateを利用しています。文字情報は頻繁にアップデートされて新しいところが多いです。画像もテキスト情報と同じくらい頻繁に更新されるとより使いやすくなります。

南先生:私がUpToDateを使うもう一つのポイントは、やはり情報の早さです。書籍は改訂するまでに数年かかりますが、UpToDateは電子媒体ですから、情報の更新が早い。例えば、新しい治療法や標準的な治療を変える論文が出れば、数か月後にはUpToDateの情報が書き換わっています。文字通りUp-To-Dateな(最新の)情報が手に入る。これはとても重要なことで、このスピード感はそのままでいてほしいですね。あとは希少疾患に関する情報も、我々が欲しい情報ですのでこの点がカバーされることに期待しています。

現在はUpToDate が多施設での共通言語のようになっている部分があるのでしょう。大学病院でも同じコンテンツを持っていれば、研修の連続性が維持できます。
神戸大学医学部附属病院 総合臨床教育センター長 河野 誠司
Dr. Ikuko Yano
神戸大学医学部附属病院
薬剤部長・教授
矢野 育子
Dr. Hironobu Minami
神戸大学医学部附属病院
腫瘍・血液内科
教授 南 博信
Dr. Kazuhiko Sakaguchi
神戸大学医学部附属病院
総合内科 准教授、診療科長
坂口 一彦
Dr. Seiji Kono
神戸大学医学部附属病院 
総合臨床教育センター長
河野 誠司
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